≪ 登 場 人 物 ≫

 

 

 

 

配 役【♂4:♀1:不問2】

 

 

▦ 景 / ケイ  ♂

 

不可思議な夢を1番初めに見始めた人物。 敏生(としき) 他のメンバーより一つ年下。

 

▦ 敏 生 / トシキ  ♂

 

他のメンバーより一つ年下。

 

▦ 馨  / カオル 不問

 

世話焼きタイプというよりも、まとめ役として立ち回る事が多々。

 

▦ 志 信 / シノブ 不問

 

基本的に毒舌ではあるが、=冷酷ではなく、単に中の良さからの口が悪いタイプ。

 

▦ 大 貴 / ダイキ  ♂

 

事なかれ主義。しかし仲間内ではいわば良い兄貴的存在。

 

▦ ? ♀

 

▦  ??  ♂

 

※大貴と??は兼任可能

 

物語上不問Cも男性キャラクターとして書いていますが女性に変換可能です。その際は一人称語尾などは女性用に改変して構いません

キャラクター名の隣に「N」の記載がある場所はナレーションの意です。

 

【配役表】

景/

敏生/

馨/

志信/

大貴/

?/

??/

 

 

 

景 N『最近よく夢を見る。真っ暗な世界の夢。一体何時から見始めたのかはわからないけれど、ずっと同じ夢を何度も何度も繰り返し見ている事だけは確かだった。何かも分からない、ただ……ただ、真っ暗な夢』

 

磬  「夢、ねぇ」

 

景  「そう、夢」

 

敏生 「その夢が、なんかあんの?景くん」

 

景  「や、別に何がある…とかじゃないんだけど」

 

志信 「同じ夢ばっかで気になるってことじゃない?」

 

大貴 「お。しのちゃん珍しく真っ当な意見」

 

磬  「んで?どんな夢なのそれ」

 

敏生 「この2人軽くスルーするあたり、さすが磬だなー…」

 

大貴 「華麗すぎてもう慣れたんだけど、磬のスルーとか」

 

景  「すっげぇ喋りにくいなこの状況……」

 

志信 「だいくんのせい」

 

大貴 「責任転嫁つらぁ~!しのちゃん辛辣ぅ~!」

 

磬  「どっちもどっち。んで?どんな夢なの?」

 

景  「…真っ暗」

 

志信 「……真っ暗?」

 

大貴 「なんか、夢って感じしないなそれ」

 

景  「真っ暗なんだけど、……なんていうか、寒いんだよ、身体が」

 

敏生 「益々わっかんねー……え、何夢占いとかしてみる?なんか潜在的なものとかじゃないの、ストレスとか」

 

景  「ストレス………」 

 

敏生 「……ん?」

 

景  「あるっちゃあるけど、関係なさそ」

 

敏生 「えー…んじゃあなんだろうねぇ」

 

志信 「今完全に "ストレスの原因はお前だ" って顔してたね景くん…」

 

大貴 「うんうん。してたなぁ…」

 

磬  「まぁ………わからなくもないけど」

 

敏生 「え?………え?!酷くない!?ってか、景くんの夢!!そっち本題でしょ?」

 

景  「やー……まぁ、気になるってだけで、特に害も何も無いし、ちょっとした暇潰し程度に話しただけだし…」

 

志信 「…けど、結果気になってるんじゃない?」

 

景  「そりゃ……まぁ、うん…」

 

大貴 「なぁなぁ景くん?」

 

景  「はいはいだいくん?」

 

大貴 「進展あったら教えてな?その夢」

 

景  「へ?」

 

磬  「え、お前なんかあると思ってんの」

 

大貴 「あったら、な。あるかもしれないし、ないかもしれない。景くんがこれを暇潰しに話したなら続きがあったとするなら、俺らも楽しめるやつじゃん?」

 

景  「はは、まぁ……続いたら、な」

 

 

 

? 『……ぃちゃ、』

 

景 『……声?』

 

? 『…おにい、ちゃん』

 

景 『俺のこと呼んでる…?』

 

? 『おにいちゃん、何処に居るのぉ…?』

 

景 『違う、……誰を呼んでるんだろ…呼んでる、探してる…?え、やっぱ対象は…俺?え?なに…』

 

? 『…おにいちゃあん……どこぉ?』

 

 

 

大貴 「…マジか」

 

景  「マジで。なんか、ちっちゃい子の声だった」

 

大貴 「おにいちゃん、って?それは、景くんが話し掛けられた感じ?」

 

景  「いや、それがそうでも無いんだよな…なんていうか、俺の事は見てない感じ」

 

大貴 「ほぉ?」

 

志信 「…何してんの?2人で」

 

景  「おわ!!?」

 

志信 「ちょ、……鼓膜破けるから大きい声で叫ばないでくんない…」

 

大貴 「いや、お前が音も立てずに後ろに居るから……」

 

志信 「あぁ………景くん、ごめんな?」

 

大貴 「俺には申し訳ないと思ってないのか志信…」

 

景  「や、うん……。うん(深呼吸)」

 

志信 「……で?何してたの?」

 

大貴 「見たんだとさ、続き」

 

景N  「3人居ればまぁ、自ずと全員集まるもので。単に暇潰しで話したし、アイツらも最近面白い遊びもないから食いついてるんだろうくらいにしか思ってなかった、んだけど」

 

磬  「ホントに続いたんだなぁ」

 

景  「んー……多分?いつもの感じに声があったくらいだけど」

 

敏生 「景くんさぁ、その夢って…」

 

景  「あ?」

 

敏生 「…その夢に出てきた声、お兄ちゃん探してたり、する?」

 

景N  「大貴には話した夢の内容。もちろん3人目の志信にもまだ告げてないそれを、最後に来たコイツが何故知ってるのか…疑問系で聞かれて思わず固まった」

 

大貴 「景くん、先に敏生に喋った…?」

 

景  「喋ったのはお前にだけ……なんで敏生それ、」

 

敏生 「俺も、その声聞いた…夢で」

 

景N  「敏生はいつもおちゃらけてて、俺らの中じゃ弄られ役というか、ムードメーカー的な存在で。普段なら俺らの事をからかってくるんだけど。この時の敏生はそんな雰囲気微塵もなくて」

 

志信 「聞いた……って、ほんとに?」

 

敏生 「……うん、"お兄ちゃん、何処?" って、多分…小さい女の子」

 

景  「…!」

 

景N  「少なくとも、こんな風に場の空気を固める奴では、ない」

 

 

 

? 『早くしないと、終わっちゃうよ』

 

? 『…あれ、おねえちゃん…?』

 

? 『……おねえちゃん、どこ?』

 

景 「………っ、!……また、あの声。…なんだよ、この夢……」

 

 

 

景N  「敏生が同じ夢を見たと言ったあの日を境に、夢は更に夢らしく無いものになっていった。視界は相変らず真っ暗で、俺の身体は冷え切ったまま、けれど前回よりもはっきりと聞こえた子供の声。そしてそれは、1日、2日程度で終わらずに毎日続いた」

 

 

 

磬  「なんだ、寝不足か?」

 

景  「あー、…そう見える?」

 

磬  「目の下、くっきり隈出来てるし景くん」

 

志信 「まだあの夢見てる?もしかして……」

 

景  「…んー…」

 

敏生 「…景くん」

 

大貴 「この様子じゃあ、敏生もか…」

 

敏生 「………なんか、さ。おかしいんだよ、夢っぽくないっていうか」

 

磬  「……どういうこと?」

 

景  「…夢っていうより、なんか半ば強制的に目の前で再生される映画、みたいな…」

 

敏生 「…やっぱり、そう思う、よね」

 

大貴 「ちょ、ちょ……お前らだけで話進めんなって、」

 

磬  「ほんとお前ら同じ夢見てるみたいだな」

 

敏生 「同じ夢、なのか影響受けてるだけかはわかんないけど、今んとこは……ねぇ」

 

景  「同じビデオを延々見てる感覚」

 

大貴 「ビデオねぇ……けど、真っ暗なんだろ?未だに」

 

志信 「真っ暗、女の子、お兄ちゃん、おねえちゃん……欠片が断片的過ぎてなんにもわかんないな」

 

敏生 「あ…」

 

景  「…あ?」

 

敏生 「笛の音………」

 

景  「…笛?」

 

大貴 「……そこら辺、景くんは聴いてない?」

 

景  「覚えて、ない……いや、覚えてないってか、聴こえてない、かも?何、笛の音って…」

 

志信 「…同じビデオでも、見てる場面が違う…とか?」

 

大貴 「はじめて景くんから夢の話を聞いてから、大体1ヶ月。この頃には俺らの中じゃこの話は新しいおもちゃみたいで、夢を見ていない俺、磬、志信はノートに断片的な情報を書き出して繋がらないか模索したりしてた。…まぁ、当の本人達も共通したりしなかったりする夢の話をなんだか真剣に考えてたように見えたけど、何分情報不足。そう簡単に進むはずはなかった」

 

大貴 「……夏祭り?ここの?」

 

景  「いや…わかんない、…雰囲気古い感じだからなぁ…」

 

大貴 「つーか、ほんとにそれ夏祭り?」

 

敏生 「下駄の音、んで太鼓とか笛……ってなったら連想できんのは夏祭りじゃない?」

 

景N  「この頃、俺と敏生の夢は音が多くなっていたわりにまだ映像は無くて、得た情報からの連想ゲームみたいなものしか出来なかった。志信が丁寧にメモなんか取ってたものだから、俺たちはもうこの夢に夢中になっていっていた」

 

志信 「…なんなんだろうな、これ」

 

磬  「いよいよ夢らしからぬ、って感じだしなぁ……まるで、誰かの記憶見てるみたいな」

 

景  「……きおく?」

 

磬  「なんとなく、な。だって夢の中に居るハズの2人はその世界になんにも関わらないんだろ?テレビの向こう側っていうか、ラジオの向こう側みたいな……そうなると、鑑賞させられてる、みたいな感覚じゃん?」

 

敏生 「……鑑賞させられてるとしたら、一体誰の、」

 

大貴 「…」

 

磬  「大貴?」

 

大貴 「……景くんと敏生の夢に共通してるの、今のところこの女の子だけだろ?…記憶だとしたら、この子なんじゃねーの?」

 

?   『おねえちゃん、早く早く!早くしないと、林檎飴売り切れちゃうよぉ』

 

敏生 「…かくれんぼ、してたんだ」

 

景  「………おねえちゃんと、この子で?」

 

敏生 「俺、昨日見た、おねえちゃん隠れて……それで、…」

 

景N  「その日の夜…夢には色があった。鮮やかでは無い、何処か霞がかったようなセピア調の色。確かに今は夏で、辺り一面には提灯や屋台の安っぽい明かりがあった。……けれど、女の子の顔も、その子が見ているはずの視線の先も朧気で肝心な所までは何も見えない、けれど」

 

? 『もーいいかーい』

 

?『もーういーいよー』

 

 

《携帯の着信音≫

 

景  「(着信に応じる)…ぁい、……」

 

敏生 「景くん、今日見た!?」

 

景  「敏生か…何こんな明け方に……ふぁあ……見た、って夢?…まぁ、相も変わらず…」

 

敏生 「映像付きで?」

 

景  「…映像付きで。そういや映像は初めてか……なんで?」

 

敏生 「大貴が、……大貴も見たってさ。同じ夢」

 

磬  「…見てないの、俺とお前だけだなぁ」

 

志信 「磬くん、寂しいの?」

 

磬  「や、そういうんじゃないけど……なんていうか…益々おかしな事になってるなぁ、みたいな」

 

志信 「…まぁ、な。3人目の鑑賞者が居たらまぁただの夢じゃないだろうな。で、大貴は?」

 

磬  「あー…なんか具合悪いみたいで」

 

志信 「具合悪い?あの体力馬鹿ゴリラが?」

 

磬  「体力馬鹿ゴリラ……」

 

志信 「間違ってないと思いますけど」

 

磬  「絶妙過ぎるあだ名だわ…」

 

志信 「冬でも半袖着るタイプの大貴がこの夢見た次の日に体調不良なんて、偶然と思えって方が無理ありそうな話なんだけど?」

 

磬  「まぁ…確かに」

 

敏生N 「だいくんから聞いた内容は俺らがまだ見ていないもう少しだけ先の話だった。けど、俺らと違ったのは大貴だけはその夢を "あの子" の視点から見ていたらしいんんだけど…」

 

景  「大貴の視点は……あの女の子ってこと?」

 

敏生 「俺らここ数ヶ月見てるけど、1度も登場人物視点なんて無かったよね…」

 

大貴 「…記憶に残る程考えてただけ、なら良いんだけどな」

 

景  「考えすぎて夢に見た、って?んで勝手に先を想像しちゃって、とか?」

 

大貴 「そうであって欲しい、が本音」

 

敏生 「…だいくんさぁ、見た内容詳しく話してないよね?…ねぇ『何』を見たの?」

 

? 『いーち、にーい、さーん、よーん、ごーお、ろーく…』

 

大貴 「鬼だったんだよ」

 

? 『しーち、はーち、きゅーう、』

 

大貴 「ただ祭りを見るのも飽きて、ねえちゃんと遊ぶってなって…交代しつつかくれんぼしてた。それで、何度目かの鬼の番だった…」

 

? 『じゅう!……もーいいかーい』

 

大貴 「…今までは見つかったんだ、すぐ。なのにこの時だけ、もういいよも聞こえなくて」

 

? 『…?もーいいーかぁーい』

 

大貴 「ルールで遠くには行かないって決めてたからおかしいなとは思った…けど。きっとねえちゃんの作戦だろう、って探し始めるんだ、境内の下とか子供が隠れられそうな所をあちこち…それで、…あいつが、近付いてきた」

 

敏生 「あいつ……?」

 

大貴 「…2人もいずれ見ると思う。これが俺の妄想じゃなければ」

 

 

??『お姉ちゃんを探しているの?』

 

景 『……誰だ?あれ』

 

??『君と同じ浴衣の女の子なら、向こうで見かけたよ。きっと君のこと探してるんじゃないかな』

 

? 『ほんと?お兄ちゃん、ありがとぉ!』

 

景 『だめだ、そっちは………!』

 

景N 『夢の中で、俺はあの子を止めたくて手を伸ばした。行っちゃダメだ、何故かは分からないけど強くそう思ったから。けれど、これは夢だから手も声も届くはずなかった。文字通り飛び起きた俺の身体は夏の暑さだけではない嫌な汗が、じっとりと吹き出していた』

 

 

敏生 「景くん、見た?」

 

景  「紺色の浴衣?」

 

敏生 「…やっぱ、見たんだ」

 

景  「お前もか…、なんかめっちゃ気持ち悪かった…な」

 

敏生 「気持ち悪かった、何処が、ってより雰囲気が…ねぇ、もしかしてだいくん見たのってそいつの事…?」

 

大貴 「その先は…見てない?」

 

景  「俺が見たのは、姉ちゃんの場所を示した辺りまで、だな」

 

敏生 「俺も、その辺かな……だいくん、その先見たの?…聞かない方が、いい?」

 

大貴 「家…」

 

景  「…家?」

 

大貴 「…見てない、か」

 

敏生 「ねぇ、待って?……家ってもしかして……その子男に誘拐された、とかじゃあないよね…?」

 

 

敏生N 「これは誰かの記憶なのか?そうだとしたら何かを伝えるため?それがどうして俺達なんだろう、とか。疑問は次から次へと湧き出てきて解決する素振りが無い。…女の子は、どうなったんだろう。それもいずれ夢に見るのだろうか…漠然とそんなことを考えていた」

 

志信 「……誘拐とは、また物騒な話だね。2人は見てないの?」

 

敏生 「俺らはまだ、………多分次のシーンなんだと思うけど。ね、景くん」

 

景  「………」

 

敏生 「…景くん?」

 

景  「…んぇ?あ、あぁ、うん」

 

? 『もういいよ』

 

景  「あ…?」

 

? 『もういいよ、…もういいよ』

 

景N  「それはまさに白昼夢だった。眠っていないのにすぐ隣で聞こえた声。当然あの子の姿はあるはずはなく、ただ耳の奥に寂しそうなあの子の声だけ残った」

 

馨  「…なぁ。変な事言ってもいいかな?」

 

志信 「なに?」

 

敏生 「なになに、その前置き怖いんだけどー…」

 

馨  「お前ら、夏祭りが云々って話してたじゃんか。でさ、ふと気になって婆ちゃんに聞いてみたんだよ。この街でも夏祭りってあるよなぁ?って。そしたら」

 

敏生 「…そしたら?」

 

馨  「俺らが知ってる夏祭り、ずっと昔にある事件があって、数年間中止になってるらしいんだよな」

 

景  「…事件?」

 

馨  「そう、事件。…俺らが産まれる前だけどな。行方不明になった子供が居るんだって」

 

敏生 「…!!!」

 

志信 「それって」

 

景  「…偶然じゃあ…」

 

馨  「ない、とは言いきれないだろうな。…んで、図書館で古い新聞探してみたんだよ、当時の事件の事がないかって。そしたら、ビンゴ」

 

景N  「馨くんが持ってきた古ぼけた新聞には小学生の姉妹がその年の祭りの夜から行方が分からなくなっており地元の警察は事件と事故の両方の可能性を視野に入れて捜査中、という小さな記事が載っていた。その無機質な文字を追う度に殴られたように頭が痛くなった」

 

敏生 「…本当に偶然なんかじゃなく俺達が見てるのって、その行方不明になった女の子ってこと?でもなんで?なんで俺達が…」

 

景  「なんで、とか俺が聞きたい…、第一知り合いでもなんでもないじゃん」

 

大貴 「この辺にあの名字の家なんて今あったか?」

 

景  「…いや、見覚えない」

 

敏生 「俺も……もう引っ越したんじゃないの?そんな事件があったから…」

 

景  「この事件って、解決したのかな…」

 

大貴 「馨の婆ちゃんが言うには、結局見つからなかったみたいだけど…新聞とか、ネットとか情報落ちてたりしないんかね、こういうの」

 

敏生 「そこら辺、志信が強いんだよなぁ…」

 

志信 「児童行方不明…あった、記事。…30年くらい前か…当時、警察は事件事故両方の面から捜査してた、と…これは新聞と一緒」

 

敏生 「それ以外はなにもない感じ?」

 

志信 「目撃者は、居ないことは無かったみたいだね。…あっ」

 

大貴 「どうした?」

 

志信 「…早い段階で何らかの事件に巻き込まれた可能性の方が高いって、捜査をそっちに切り替えたって」

 

景  「なぁ、それってやっぱり…」

 

大貴 「あいつ、だろうな」

 

馨  「紺色の浴衣か?」

 

志信 「結局有力な手掛かりも見つからないから捜査打ち切りになってるな…はぁ、胸クソ悪…」

 

大貴 「…そうか、見つかってないのか」

 

敏生 「見つけて欲しい、のかなぁ…。だから、俺達の夢ん中に出てきたのかなぁ」

 

景  「…かくれんぼを、終わらせてやらなきゃ」

 

大貴 「え?」

 

馨  「いきなりどうした、景くん……」

 

景  「かくれんぼ、してんだよまだ。多分あの子隠れてる、鬼はあいつだった。見つけてやらなきゃ」

 

志信 「景くん」

 

景  「姉ちゃんも、どっかに居る。あの子も、だから早く」

 

志信 「景くん!」

 

景  「…っ!!」

 

志信 「景くん今、何見てる?」

 

? 『お兄ちゃんみぃつけた!ねぇねぇ、今度はお兄ちゃんが鬼の番ね!10数えてね、ゆっくりよ?』

 

景  「何見て、って?っ、……ア、タマ、痛…!」

 

馨  「ちょ、景くん!?」

 

景  「いっ、、……てぇ」

 

? 『どこがいいかなぁ、…見つからない場所見つからない場所……えーと、えーっと……』

 

景  「ぐ、っ……ぁ、」

 

敏生 「景くん、大丈夫?!ねえ!」

 

? 『ここならみつからないかな?……よいしょ、と』

 

景  「あ゙ぁぁあ…っ!!!」

 

志信 「景くん!!!」

 

? 『ねえお兄ちゃん、お姉ちゃんは?』

 

??『転んで怪我をしちゃったから、お兄ちゃんのお家で手当をしたんだ。けど、そうしたら具合が悪くなっちゃったんだって』

 

? 『じゃあすぐおうちに帰らなきゃ』

 

??『お姉ちゃんは、少し寝たら治るからって、お兄ちゃんの部屋で横になってるよ』

 

? 『…そうなの?じゃあ、お姉ちゃん起きたら一緒に帰る』

 

??『うん。…じゃあお姉ちゃんが起きるまでお兄ちゃんとかくれんぼしようか』

 

? 『かくれんぼ!わたし、つよいんだよ、いつもお姉ちゃんとしてるの。さっきもね、沢山したのよ』

 

??『じゃあ、お兄ちゃんのお家から出ないルールで、鬼はゆっくり10数える、これでいい?』

 

? 『うん!じゃあ、最初はわたしが鬼!お兄ちゃん隠れてね!いくよ、いーち…、にーい…』

 

馨  「……くん、景くん!」

 

景  「……あ、あれ」

 

敏生 「あぁ、よかったぁ…」

 

志信 「頭痛い、って急に動かなくなるから心配した。大丈夫?」

 

景  「…あ、あぁ、うん…」

 

景N『声は響く、白昼夢は終わらない』

 

?   『お兄ちゃん』

 

景  「…!、また」

 

?   『お兄ちゃんが、オニだよ』

 

 

 

志信 「…え?」

 

馨  「婆ちゃんが覚えてた」

 

大貴 「覚えてたって、まさか…」

 

馨  「被害者の子達こと、覚えてた。……昔、婆ちゃんこの街でちっちゃい駄菓子屋やってたらしくてな。そこによく母親と一緒に来てたらしいんだ」

 

敏生 「…じゃあ、事件のあとのことも」

 

馨  「うん、……母親がかなりのノイローゼになったらしくて、まぁ大事な娘が2人同時に居なくなって生きてるのか死んでるのかすらわからない状況じゃあ、そうなっても仕方ないんだろうけど…神社の周りを朝から晩まで徘徊したり、警察に怒鳴り込みに行ったり…見てる方が辛かったって言ってた」

 

景  「……」

 

馨  「結局、この土地に居たんじゃいつまでも苦しみ続けるから、って父親の実家の方になんとか説得して引っ越したらしいんだ。で、その一家が元々住んでたのが、」

 

景  「…住んでたのが、なに?」

 

馨  「…景くんのアパートだって」

 

敏生 「はぁ!?マジで!!?」

 

景  「…あの家に、あの子が」

 

志信 「…とんだオカルト話だな」

 

大貴 「最初からオカルトだっただろ。でも、じゃあ俺と敏生はなんで…あ、」

 

敏生 「あ、ってなにさ。だいくん」

 

大貴 「敏生、お前の爺さんって昔…」

 

敏生 「爺ちゃん?……え、あ…!……そうか」

 

志信 「…?」

 

景  「敏生の爺さん、自治会長だったっけか」

 

大貴 「…うちは、親父が警察官、そうか…皆何かしら関わってたんだ、事件に」

 

馨  「お前警察官の息子なの?」

 

大貴 「大分前に引退したけどな。…つーか、親父からそんな話聞いたこともなかった…」

 

志信 「家族には言えないだろ。…とはいえ、こんなでかい事件なんで話題にも上がんなくなったんだ…」

 

景  「…時間が経てば嫌でも風化するのか、こういうのって」

 

敏生 「……なんか、悲しいよねそれはそれで」

 

?  『お兄ちゃんがオニだよ』

 

景  『…俺が、オニ』

 

?  『お兄ちゃんがオニ。もういいよ、早く探しに………』

 

景  「鬼は、どうなったんだろうな」

 

志信 「…犯人?…まぁ、とっくに時効だろうね…」

 

馨  「…何処までも胸くそ悪い話だな」

 

?  『お兄ちゃん、寒いよ、苦しいよ、イタイよう…』

 

敏生 「……探してあげようよ、俺たちで」

 

志信 「30年以上前の事件なのに?探すったって手掛かりも何も……」

 

敏生 「けど!……けど、見つけて欲しくて、泣いてる」

 

景  「…敏生、お前…」

 

敏生 「ずっと泣いてんだよ、あの子」

 

?  『もう、暗いところに居るのは嫌だよお…お兄ちゃ…』

 

馨  「一つ確認な。…その女の子は誘拐されて恐らく…誘拐犯の手に掛かって命を落としてる。それが俺らの共通認識で、いいんだな?」

 

大貴 「……ほんとに、いいのか?」

 

景  「だいくんは、放置しておけんの?」

 

敏生 「景くん、そんな言い方しなくても」

 

大貴 「放置、しておくべきなんじゃねぇの。見つけて俺らに何が出来んの?」

 

景  「放置してたら何時までもあの夢見る事になると思う、俺だってもう…解放されたい」

 

敏生 「…俺も、苦しんでるの見るのはもう、辛いよ。実際のところ」

 

大貴 「…だから、具体的にどうすんの。何か策でもあるわけ?」

 

景  「それは……、」

 

馨  「策なら、ある」

 

大貴 「犯人が何処のどいつかも分かってなかったのに、どうやって……」

 

馨  「別に俺達は犯人探しが目的じゃない。その子を見つけてあげることが目的なら…見てる記憶の中の、家を探したらいいだけ。そこに、居るんだろ?その子は今も」

 

敏生「…そうか、そうだよね!30年くらい前なら誰か知ってる人だって…」

 

大貴「家探すっていうけど、…30年だぞ。この辺大分様変わりして………!」

 

馨 「様変わりしてる、のにあの子は見つかってないってことは?」

 

景 「………あの頃から、変わってない所か」

 

馨 「そういうこと。変わらないままその子が眠ってるなら、新築の家なわけない。この辺で古い家は、何件かあるけど夢の中の情報と繋がる場所ってそう多くないはずだろ?」

 

景N 「その日、初めて俺はあの子と対峙した。腰より下に顔のある、小さな小さな女の子。その子は俺を見上げてにこりと笑った」

 

? 『いーよぉ』

 

景 「……?」

 

? 『もういーよぉ』

 

景 「……お前…どこに」

 

? 『庭に林檎の樹があるおうち』

 

景 「……林檎」

 

? 『林檎だよ。……ねえお兄ちゃん。林檎飴食べたいなァ』

 

景 「…お前だけか?」

 

? 『んーん、お姉ちゃんも一緒』

 

景 「……そっか」

 

 

 

 

志信「林檎……?」

 

景 「そう。林檎の樹」

 

大貴「この辺りで林檎の樹…なぁ」

 

馨 「祭りのあった神社は、一高(いちこう)の裏手だしその辺の古い家、で林檎の樹のある家…ってことか…?」

 

敏生「一高の近く…一高、神社…ええと…」

 

志信「ブツブツうるさいなぁ、なんなの」

 

敏生「……神社の、……ある。神社の近くにあるよ」

 

大貴「ある、って」

 

敏生「だいくん、覚えてない?俺らガキの頃美味そうだから、って取って食ったことあったじゃん」

 

大貴「…あぁ!あの家か!」

 

景 「そこ以外は?」

 

敏生「俺の記憶に残ってんのは、その家くらいかなぁ…」

 

馨 「……ここで話してても時間勿体ないな。…手掛かりがあるなら、取り敢えず行ってみる?あとは歩きながらでも探せると思うし」

 

? 『林檎飴食べたいなァ…』

 

景 「……この辺で林檎飴なんて売ってるはずない、か」

 

志信「…林檎飴?なんで?」

 

景 「食いたいって、言ってたんだよな…あの子」

 

敏生「…そういや、祭りでも食べてたっけ」

 

大貴「小さい口いっぱいに頬張ってたなぁ」

 

馨 「…いや、あると思うけど?ほら」

 

志信「……あぁ、今日からなんだ…あそこの夏祭り」

 

敏生N 「夏祭りのポスターを見つけた頃。外はもう日が傾いていて、外に出ると湿った夏の空気が俺達の間を通り抜けていった。……まるで、小さな子供が走りすぎていったような…そんな感覚に陥った。俺達はそのまま提灯の光る参道を歩き懐かしい屋台の中を少しだけ見て回った」 

大貴「ひとつ?ふたつ?」

 

景 「ふたつ」

 

大貴「おっちゃん、ふたつね」

 

志信「……大の男が並んで林檎飴買ってる姿ってかなりシュールやと思ってたけど、景くんだと違和感ないな」

 

敏生「それ、景くんにいったらキレるよ〜?」

 

志信「大貴は違和感ありまくりだけど」

 

馨 「キレないけど、その言い方は大貴ヘコむぞぉ……」

 

敏生「この辺りだったと思ったんだけどなぁ……」

 

? 『お兄ちゃんっ』

 

景 「…!」

 

? 『お兄ちゃんがいっぱい…』

 

景 「…今、見つけに行くから」

 

? 『…うん。』

 

大貴「敏生、ここ」

 

馨 「………ここ?」

 

敏生「うん、…間違いない」

 

志信「…空き家ってより、廃屋(はいおく)だな…これ…」

 

馨 「…景くん、ここだって」

 

景 「……ん、今行く」

 

敏生「うわ、床抜けそ……」

 

大貴「ってか今更だけどこれ不法侵入なんじゃね…?」

 

志信「今更過ぎて笑いも取れないというか不法侵入とか難しい言葉よく知ってたなぁゴリラ」

 

大貴「え、今突然の毒?俺なんかした??」

 

馨 「結構広い家だなぁ……どの部屋かは、さすがに分かんないもんなぁ…」

 

敏生「出た、必殺スルースキル…」

 

? 『もーういーいよー』

 

敏生「……!!…今の」

 

大貴「あぁ…聞こえたな」

 

景 「聞こえた。あの子だ」

 

志信「……馨くん、聞こえた?」

 

馨 「いや、……やっぱりアイツらにだけ、だな。なぁ、闇雲に全員が動いても仕方ないし、二手に分かれて探そ」

 

 

(間)

 

 

馨 「お前、案外こういうの真剣になるんだな」

 

大貴「ここまで来たらな、無視もできねーじゃん。むしろ聞いてただけのお前と志信がここまで着いてきてんのが驚き」

 

馨 「…そうか?まぁ、そこはあれ。放っておけない性分」

 

大貴「ふは、……損な性分だな」

 

志信「…カビ臭い…」

 

敏生「ガキの頃から空き家だったからなぁココ」

 

志信「取り壊しとか、よくされなかったよな…」

 

敏生「取り壊すにもかなり金が掛かるらしいしねぇ…だから放置してたんじゃない?立地的にも奥まってて買い手付きにくいだろうし」

 

景 「…何年も、何十年も…こんな所に居て、寂しかったんだな…」

 

志信「…寂しい、だろうな」

 

? 『もういいよォ』

 

敏生「おわっ!!」

 

志信「あっぶな……なにしてんの敏生…」

 

敏生「いってててて………何か躓(つまず)いた…」

 

景 「…敏生、そこの畳剥がせる?」

 

敏生「……んぁ?畳…?」

 

志信「…ここ?」

 

景 「…ここだと思う」

 

敏生「ちょっと待って。だいくん達も呼んでくる」

 

景N 「ここに居る、そう思ったのは直感だった。ボロボロの畳を携帯の明かりを頼りに1枚ずつ剥がして見えた基礎の木枠は…少し振り下ろした足の力で簡単に割れた」

 

志信「……土に混じって、なんか」

 

敏生「うん………なんだろうこの変な匂い…」

 

大貴「……掘ってみるか」

 

敏生N 「割った木枠をスコップの代わりにして、少しずつ、少しずつ土を掘り起こしていった。暗く冷たい土の下に眠ってる彼女達を傷付けないように、ゆっくりと少しずつ」

 

馨 「…ストップ。………これ、…………浴衣じゃないか?」

 

景 「………やっと、見つけた」

 

志信「本当に……こんな所に…」

 

景N 「布の下に、小さな細い白い骨。間違いなんてあるはず無かった。辿るように掘り進めて、ふたつ並んだ頭蓋骨を見つけた俺達は、そっと、その頭を抱きしめた時…」

 

? 『お兄ちゃん、ありがとう…』

 

景N 「そんな可愛い声が、5人の耳に風の音のように流れ込んできた」

 

志信「ほんとにここでいいの?」

 

景 「骨持ってこれ無縁仏に入れてくれ、なんて俺達が犯罪者にでも間違われたらどうすんだよ」

 

志信「それはそうだけど………」

 

大貴「見つけても、ちゃんと供養してやれるわけじゃない…親んとこにも帰してやれない、最初から分かってた事じゃん」

 

馨 「…せめて暗い畳の下から出してあげられただけ、マシ……って思うしかないか」

 

敏生N 「見つけた骨は、庭の林檎の樹の下に埋め直すことにした。…志信はちょっと不満がありそうだったけれど、俺達にはそれ以外何も出来ないから、という景くんの顔が1番辛そうで何も言えなかったみたい。……本当は、家族に会わせてあげられたらよかったんだけど」

 

? 『よかった…これでもう寒くないね』

 

景 「…ごめんな」

 

? 『いいよ、お兄ちゃん達は見つけてくれたもん。……ありがとう』

 

敏生「…景くんアレは?」

 

? 『……?あっ、林檎飴…!それにふたつも…!』

 

景 「…ひとつは姉ちゃんの分だからな。食うなよ」

 

? 『うんっ……ありがとぉ…』

 

 

(間)

 

 

馨 「はぁぁ…もうすっかり夜だなぁ…」

 

敏生「ほんとだ…。なんか、長かったね」

 

志信「…長く感じたな」

 

馨 「……いつかあの家が壊されることがあれば、あの子らも帰れるのかねぇ」

 

大貴「…さぁな、でもそうであって欲しいけど」

 

景 「…あとはもう帰るだけだろ。もうかくれんぼは終わってんだから」

 

馨 「…そう、だな。なぁどうする?これから」

 

敏生「どうする?って?」

 

馨 「帰る?」

 

志信「…あー、どうしようか」

 

敏生「…帰んないならさぁ…祭り行かない?皆で」

 

大貴「これからぁ?」

 

敏生「まだ終わってないみたいだし、少し位見て回れるっしょ」

 

景 「…このメンツで祭り、ねぇ」

 

志信「…いいんじゃない?」

 

馨 「え」

 

志信「え?」

 

馨 「いや、志信がそういうの珍しいと思って。いつもお前が真っ先に苦言呈するっていうか文句垂れるっていうか…」

 

志信「別にいつも不満な訳じゃないんですけど」

 

馨 「はは……さいですか。んで、大貴達は?どうする?」

 

大貴「俺も行く。景くんは?」

 

景 「……」

 

大貴「景くん?」

 

景 「あ?あぁ………」

 

敏生「行く?」

 

景 「…行くかー。敏生お前の奢りな」

 

敏生「はぇ!?なんで!?」

 

景 「言い出しっぺお前だし。あ、俺林檎飴食いたい」

 

大貴「んじゃ俺も林檎飴ー」

 

志信「俺も」

 

馨 「………俺も半分出すか?」

 

敏生「いいよ!!林檎飴位ご馳走しますぅ!」

 

? 『ふふふ、もういーいかーい。もーういーいよー』

 

 

 

終≪ 登 場 人 物 ≫

 

 

 

 

配 役【♂4:♀1:不問2】

 

 

▦ 景 / ケイ  ♂

 

不可思議な夢を1番初めに見始めた人物。 敏生(としき) 他のメンバーより一つ年下。

 

▦ 敏 生 / トシキ  ♂

 

他のメンバーより一つ年下。

 

▦ 馨  / カオル 不問

 

世話焼きタイプというよりも、まとめ役として立ち回る事が多々。

 

▦ 志 信 / シノブ 不問

 

基本的に毒舌ではあるが、=冷酷ではなく、単に中の良さからの口が悪いタイプ。

 

▦ 大 貴 / ダイキ  ♂

 

事なかれ主義。しかし仲間内ではいわば良い兄貴的存在。

 

▦ ? ♀

 

▦  ??  ♂

 

※大貴と??は兼任可能

 

物語上不問Cも男性キャラクターとして書いていますが女性に変換可能です。その際は一人称語尾などは女性用に改変して構いません

キャラクター名の→隣に「N」の記載がある場所はナレーションの意です。

 

【配役表】

景/

敏生/

馨/

志信/

大貴/

?/

??/

 

 

 

景 N『最近よく夢を見る。真っ暗な世界の夢。一体何時から見始めたのかはわからないけれど、ずっと同じ夢を何度も何度も繰り返し見ている事だけは確かだった。何かも分からない、ただ……ただ、真っ暗な夢』

 

磬  「夢、ねぇ」

 

景  「そう、夢」

 

敏生 「その夢が、なんかあんの?景くん」

 

景  「や、別に何がある…とかじゃないんだけど」

 

志信 「同じ夢ばっかで気になるってことじゃない?」

 

大貴 「お。しのちゃん珍しく真っ当な意見」

 

磬  「んで?どんな夢なのそれ」

 

敏生 「この2人軽くスルーするあたり、さすが磬だなー…」

 

大貴 「華麗すぎてもう慣れたんだけど、磬のスルーとか」

 

景  「すっげぇ喋りにくいなこの状況……」

 

志信 「だいくんのせい」

 

大貴 「責任転嫁つらぁ~!しのちゃん辛辣ぅ~!」

 

磬  「どっちもどっち。んで?どんな夢なの?」

 

景  「…真っ暗」

 

志信 「……真っ暗?」

 

大貴 「なんか、夢って感じしないなそれ」

 

景  「真っ暗なんだけど、……なんていうか、寒いんだよ、身体が」

 

敏生 「益々わっかんねー……え、何夢占いとかしてみる?なんか潜在的なものとかじゃないの、ストレスとか」

 

景  「ストレス………」 

 

敏生 「……ん?」

 

景  「あるっちゃあるけど、関係なさそ」

 

敏生 「えー…んじゃあなんだろうねぇ」

 

志信 「今完全に "ストレスの原因はお前だ" って顔してたね景くん…」

 

大貴 「うんうん。してたなぁ…」

 

磬  「まぁ………わからなくもないけど」

 

敏生 「え?………え?!酷くない!?ってか、景くんの夢!!そっち本題でしょ?」

 

景  「やー……まぁ、気になるってだけで、特に害も何も無いし、ちょっとした暇潰し程度に話しただけだし…」

 

志信 「…けど、結果気になってるんじゃない?」

 

景  「そりゃ……まぁ、うん…」

 

大貴 「なぁなぁ景くん?」

 

景  「はいはいだいくん?」

 

大貴 「進展あったら教えてな?その夢」

 

景  「へ?」

 

磬  「え、お前なんかあると思ってんの」

 

大貴 「あったら、な。あるかもしれないし、ないかもしれない。景くんがこれを暇潰しに話したなら続きがあったとするなら、俺らも楽しめるやつじゃん?」

 

景  「はは、まぁ……続いたら、な」

 

 

 

? 『……ぃちゃ、』

 

景 『……声?』

 

? 『…おにい、ちゃん』

 

景 『俺のこと呼んでる…?』

 

? 『おにいちゃん、何処に居るのぉ…?』

 

景 『違う、……誰を呼んでるんだろ…呼んでる、探してる…?え、やっぱ対象は…俺?え?なに…』

 

? 『…おにいちゃあん……どこぉ?』

 

 

 

大貴 「…マジか」

 

景  「マジで。なんか、ちっちゃい子の声だった」

 

大貴 「おにいちゃん、って?それは、景くんが話し掛けられた感じ?」

 

景  「いや、それがそうでも無いんだよな…なんていうか、俺の事は見てない感じ」

 

大貴 「ほぉ?」

 

志信 「…何してんの?2人で」

 

景  「おわ!!?」

 

志信 「ちょ、……鼓膜破けるから大きい声で叫ばないでくんない…」

 

大貴 「いや、お前が音も立てずに後ろに居るから……」

 

志信 「あぁ………景くん、ごめんな?」

 

大貴 「俺には申し訳ないと思ってないのか志信…」

 

景  「や、うん……。うん(深呼吸)」

 

志信 「……で?何してたの?」

 

大貴 「見たんだとさ、続き」

 

景N  「3人居ればまぁ、自ずと全員集まるもので。単に暇潰しで話したし、アイツらも最近面白い遊びもないから食いついてるんだろうくらいにしか思ってなかった、んだけど」

 

磬  「ホントに続いたんだなぁ」

 

景  「んー……多分?いつもの感じに声があったくらいだけど」

 

敏生 「景くんさぁ、その夢って…」

 

景  「あ?」

 

敏生 「…その夢に出てきた声、お兄ちゃん探してたり、する?」

 

景N  「大貴には話した夢の内容。もちろん3人目の志信にもまだ告げてないそれを、最後に来たコイツが何故知ってるのか…疑問系で聞かれて思わず固まった」

 

大貴 「景くん、先に敏生に喋った…?」

 

景  「喋ったのはお前にだけ……なんで敏生それ、」

 

敏生 「俺も、その声聞いた…夢で」

 

景N  「敏生はいつもおちゃらけてて、俺らの中じゃ弄られ役というか、ムードメーカー的な存在で。普段なら俺らの事をからかってくるんだけど。この時の敏生はそんな雰囲気微塵もなくて」

 

志信 「聞いた……って、ほんとに?」

 

敏生 「……うん、"お兄ちゃん、何処?" って、多分…小さい女の子」

 

景  「…!」

 

景N  「少なくとも、こんな風に場の空気を固める奴では、ない」

 

 

 

? 『早くしないと、終わっちゃうよ』

 

? 『…あれ、おねえちゃん…?』

 

? 『……おねえちゃん、どこ?』

 

景 「………っ、!……また、あの声。…なんだよ、この夢……」

 

 

 

景N  「敏生が同じ夢を見たと言ったあの日を境に、夢は更に夢らしく無いものになっていった。視界は相変らず真っ暗で、俺の身体は冷え切ったまま、けれど前回よりもはっきりと聞こえた子供の声。そしてそれは、1日、2日程度で終わらずに毎日続いた」

 

 

 

磬  「なんだ、寝不足か?」

 

景  「あー、…そう見える?」

 

磬  「目の下、くっきり隈出来てるし景くん」

 

志信 「まだあの夢見てる?もしかして……」

 

景  「…んー…」

 

敏生 「…景くん」

 

大貴 「この様子じゃあ、敏生もか…」

 

敏生 「………なんか、さ。おかしいんだよ、夢っぽくないっていうか」

 

磬  「……どういうこと?」

 

景  「…夢っていうより、なんか半ば強制的に目の前で再生される映画、みたいな…」

 

敏生 「…やっぱり、そう思う、よね」

 

大貴 「ちょ、ちょ……お前らだけで話進めんなって、」

 

磬  「ほんとお前ら同じ夢見てるみたいだな」

 

敏生 「同じ夢、なのか影響受けてるだけかはわかんないけど、今んとこは……ねぇ」

 

景  「同じビデオを延々見てる感覚」

 

大貴 「ビデオねぇ……けど、真っ暗なんだろ?未だに」

 

志信 「真っ暗、女の子、お兄ちゃん、おねえちゃん……欠片が断片的過ぎてなんにもわかんないな」

 

敏生 「あ…」

 

景  「…あ?」

 

敏生 「笛の音………」

 

景  「…笛?」

 

大貴 「……そこら辺、景くんは聴いてない?」

 

景  「覚えて、ない……いや、覚えてないってか、聴こえてない、かも?何、笛の音って…」

 

志信 「…同じビデオでも、見てる場面が違う…とか?」

 

大貴 「はじめて景くんから夢の話を聞いてから、大体1ヶ月。この頃には俺らの中じゃこの話は新しいおもちゃみたいで、夢を見ていない俺、磬、志信はノートに断片的な情報を書き出して繋がらないか模索したりしてた。…まぁ、当の本人達も共通したりしなかったりする夢の話をなんだか真剣に考えてたように見えたけど、何分情報不足。そう簡単に進むはずはなかった」

 

大貴 「……夏祭り?ここの?」

 

景  「いや…わかんない、…雰囲気古い感じだからなぁ…」

 

大貴 「つーか、ほんとにそれ夏祭り?」

 

敏生 「下駄の音、んで太鼓とか笛……ってなったら連想できんのは夏祭りじゃない?」

 

景N  「この頃、俺と敏生の夢は音が多くなっていたわりにまだ映像は無くて、得た情報からの連想ゲームみたいなものしか出来なかった。志信が丁寧にメモなんか取ってたものだから、俺たちはもうこの夢に夢中になっていっていた」

 

志信 「…なんなんだろうな、これ」

 

磬  「いよいよ夢らしからぬ、って感じだしなぁ……まるで、誰かの記憶見てるみたいな」

 

景  「……きおく?」

 

磬  「なんとなく、な。だって夢の中に居るハズの2人はその世界になんにも関わらないんだろ?テレビの向こう側っていうか、ラジオの向こう側みたいな……そうなると、鑑賞させられてる、みたいな感覚じゃん?」

 

敏生 「……鑑賞させられてるとしたら、一体誰の、」

 

大貴 「…」

 

磬  「大貴?」

 

大貴 「……景くんと敏生の夢に共通してるの、今のところこの女の子だけだろ?…記憶だとしたら、この子なんじゃねーの?」

 

?   『おねえちゃん、早く早く!早くしないと、林檎飴売り切れちゃうよぉ』

 

敏生 「…かくれんぼ、してたんだ」

 

景  「………おねえちゃんと、この子で?」

 

敏生 「俺、昨日見た、おねえちゃん隠れて……それで、…」

 

景N  「その日の夜…夢には色があった。鮮やかでは無い、何処か霞がかったようなセピア調の色。確かに今は夏で、辺り一面には提灯や屋台の安っぽい明かりがあった。……けれど、女の子の顔も、その子が見ているはずの視線の先も朧気で肝心な所までは何も見えない、けれど」

 

? 『もーいいかーい』

 

?『もーういーいよー』

 

 

《携帯の着信音≫

 

景  「(着信に応じる)…ぁい、……」

 

敏生 「景くん、今日見た!?」

 

景  「敏生か…何こんな明け方に……ふぁあ……見た、って夢?…まぁ、相も変わらず…」

 

敏生 「映像付きで?」

 

景  「…映像付きで。そういや映像は初めてか……なんで?」

 

敏生 「大貴が、……大貴も見たってさ。同じ夢」

 

磬  「…見てないの、俺とお前だけだなぁ」

 

志信 「磬くん、寂しいの?」

 

磬  「や、そういうんじゃないけど……なんていうか…益々おかしな事になってるなぁ、みたいな」

 

志信 「…まぁ、な。3人目の鑑賞者が居たらまぁただの夢じゃないだろうな。で、大貴は?」

 

磬  「あー…なんか具合悪いみたいで」

 

志信 「具合悪い?あの体力馬鹿ゴリラが?」

 

磬  「体力馬鹿ゴリラ……」

 

志信 「間違ってないと思いますけど」

 

磬  「絶妙過ぎるあだ名だわ…」

 

志信 「冬でも半袖着るタイプの大貴がこの夢見た次の日に体調不良なんて、偶然と思えって方が無理ありそうな話なんだけど?」

 

磬  「まぁ…確かに」

 

敏生N 「だいくんから聞いた内容は俺らがまだ見ていないもう少しだけ先の話だった。けど、俺らと違ったのは大貴だけはその夢を "あの子" の視点から見ていたらしいんんだけど…」

 

景  「大貴の視点は……あの女の子ってこと?」

 

敏生 「俺らここ数ヶ月見てるけど、1度も登場人物視点なんて無かったよね…」

 

大貴 「…記憶に残る程考えてただけ、なら良いんだけどな」

 

景  「考えすぎて夢に見た、って?んで勝手に先を想像しちゃって、とか?」

 

大貴 「そうであって欲しい、が本音」

 

敏生 「…だいくんさぁ、見た内容詳しく話してないよね?…ねぇ『何』を見たの?」

 

? 『いーち、にーい、さーん、よーん、ごーお、ろーく…』

 

大貴 「鬼だったんだよ」

 

? 『しーち、はーち、きゅーう、』

 

大貴 「ただ祭りを見るのも飽きて、ねえちゃんと遊ぶってなって…交代しつつかくれんぼしてた。それで、何度目かの鬼の番だった…」

 

? 『じゅう!……もーいいかーい』

 

大貴 「…今までは見つかったんだ、すぐ。なのにこの時だけ、もういいよも聞こえなくて」

 

? 『…?もーいいーかぁーい』

 

大貴 「ルールで遠くには行かないって決めてたからおかしいなとは思った…けど。きっとねえちゃんの作戦だろう、って探し始めるんだ、境内の下とか子供が隠れられそうな所をあちこち…それで、…あいつが、近付いてきた」

 

敏生 「あいつ……?」

 

大貴 「…2人もいずれ見ると思う。これが俺の妄想じゃなければ」

 

 

??『お姉ちゃんを探しているの?』

 

景 『……誰だ?あれ』

 

??『君と同じ浴衣の女の子なら、向こうで見かけたよ。きっと君のこと探してるんじゃないかな』

 

? 『ほんと?お兄ちゃん、ありがとぉ!』

 

景 『だめだ、そっちは………!』

 

景N 『夢の中で、俺はあの子を止めたくて手を伸ばした。行っちゃダメだ、何故かは分からないけど強くそう思ったから。けれど、これは夢だから手も声も届くはずなかった。文字通り飛び起きた俺の身体は夏の暑さだけではない嫌な汗が、じっとりと吹き出していた』

 

 

敏生 「景くん、見た?」

 

景  「紺色の浴衣?」

 

敏生 「…やっぱ、見たんだ」

 

景  「お前もか…、なんかめっちゃ気持ち悪かった…な」

 

敏生 「気持ち悪かった、何処が、ってより雰囲気が…ねぇ、もしかしてだいくん見たのってそいつの事…?」

 

大貴 「その先は…見てない?」

 

景  「俺が見たのは、姉ちゃんの場所を示した辺りまで、だな」

 

敏生 「俺も、その辺かな……だいくん、その先見たの?…聞かない方が、いい?」

 

大貴 「家…」

 

景  「…家?」

 

大貴 「…見てない、か」

 

敏生 「ねぇ、待って?……家ってもしかして……その子男に誘拐された、とかじゃあないよね…?」

 

 

敏生N 「これは誰かの記憶なのか?そうだとしたら何かを伝えるため?それがどうして俺達なんだろう、とか。疑問は次から次へと湧き出てきて解決する素振りが無い。…女の子は、どうなったんだろう。それもいずれ夢に見るのだろうか…漠然とそんなことを考えていた」

 

志信 「……誘拐とは、また物騒な話だね。2人は見てないの?」

 

敏生 「俺らはまだ、………多分次のシーンなんだと思うけど。ね、景くん」

 

景  「………」

 

敏生 「…景くん?」

 

景  「…んぇ?あ、あぁ、うん」

 

? 『もういいよ』

 

景  「あ…?」

 

? 『もういいよ、…もういいよ』

 

景N  「それはまさに白昼夢だった。眠っていないのにすぐ隣で聞こえた声。当然あの子の姿はあるはずはなく、ただ耳の奥に寂しそうなあの子の声だけ残った」

 

馨  「…なぁ。変な事言ってもいいかな?」

 

志信 「なに?」

 

敏生 「なになに、その前置き怖いんだけどー…」

 

馨  「お前ら、夏祭りが云々って話してたじゃんか。でさ、ふと気になって婆ちゃんに聞いてみたんだよ。この街でも夏祭りってあるよなぁ?って。そしたら」

 

敏生 「…そしたら?」

 

馨  「俺らが知ってる夏祭り、ずっと昔にある事件があって、数年間中止になってるらしいんだよな」

 

景  「…事件?」

 

馨  「そう、事件。…俺らが産まれる前だけどな。行方不明になった子供が居るんだって」

 

敏生 「…!!!」

 

志信 「それって」

 

景  「…偶然じゃあ…」

 

馨  「ない、とは言いきれないだろうな。…んで、図書館で古い新聞探してみたんだよ、当時の事件の事がないかって。そしたら、ビンゴ」

 

景N  「馨くんが持ってきた古ぼけた新聞には小学生の姉妹がその年の祭りの夜から行方が分からなくなっており地元の警察は事件と事故の両方の可能性を視野に入れて捜査中、という小さな記事が載っていた。その無機質な文字を追う度に殴られたように頭が痛くなった」

 

敏生 「…本当に偶然なんかじゃなく俺達が見てるのって、その行方不明になった女の子ってこと?でもなんで?なんで俺達が…」

 

景  「なんで、とか俺が聞きたい…、第一知り合いでもなんでもないじゃん」

 

大貴 「この辺にあの名字の家なんて今あったか?」

 

景  「…いや、見覚えない」

 

敏生 「俺も……もう引っ越したんじゃないの?そんな事件があったから…」

 

景  「この事件って、解決したのかな…」

 

大貴 「馨の婆ちゃんが言うには、結局見つからなかったみたいだけど…新聞とか、ネットとか情報落ちてたりしないんかね、こういうの」

 

敏生 「そこら辺、志信が強いんだよなぁ…」

 

志信 「児童行方不明…あった、記事。…30年くらい前か…当時、警察は事件事故両方の面から捜査してた、と…これは新聞と一緒」

 

敏生 「それ以外はなにもない感じ?」

 

志信 「目撃者は、居ないことは無かったみたいだね。…あっ」

 

大貴 「どうした?」

 

志信 「…早い段階で何らかの事件に巻き込まれた可能性の方が高いって、捜査をそっちに切り替えたって」

 

景  「なぁ、それってやっぱり…」

 

大貴 「あいつ、だろうな」

 

馨  「紺色の浴衣か?」

 

志信 「結局有力な手掛かりも見つからないから捜査打ち切りになってるな…はぁ、胸クソ悪…」

 

大貴 「…そうか、見つかってないのか」

 

敏生 「見つけて欲しい、のかなぁ…。だから、俺達の夢ん中に出てきたのかなぁ」

 

景  「…かくれんぼを、終わらせてやらなきゃ」

 

大貴 「え?」

 

馨  「いきなりどうした、景くん……」

 

景  「かくれんぼ、してんだよまだ。多分あの子隠れてる、鬼はあいつだった。見つけてやらなきゃ」

 

志信 「景くん」

 

景  「姉ちゃんも、どっかに居る。あの子も、だから早く」

 

志信 「景くん!」

 

景  「…っ!!」

 

志信 「景くん今、何見てる?」

 

? 『お兄ちゃんみぃつけた!ねぇねぇ、今度はお兄ちゃんが鬼の番ね!10数えてね、ゆっくりよ?』

 

景  「何見て、って?っ、……ア、タマ、痛…!」

 

馨  「ちょ、景くん!?」

 

景  「いっ、、……てぇ」

 

? 『どこがいいかなぁ、…見つからない場所見つからない場所……えーと、えーっと……』

 

景  「ぐ、っ……ぁ、」

 

敏生 「景くん、大丈夫?!ねえ!」

 

? 『ここならみつからないかな?……よいしょ、と』

 

景  「あ゙ぁぁあ…っ!!!」

 

志信 「景くん!!!」

 

? 『ねえお兄ちゃん、お姉ちゃんは?』

 

??『転んで怪我をしちゃったから、お兄ちゃんのお家で手当をしたんだ。けど、そうしたら具合が悪くなっちゃったんだって』

 

? 『じゃあすぐおうちに帰らなきゃ』

 

??『お姉ちゃんは、少し寝たら治るからって、お兄ちゃんの部屋で横になってるよ』

 

? 『…そうなの?じゃあ、お姉ちゃん起きたら一緒に帰る』

 

??『うん。…じゃあお姉ちゃんが起きるまでお兄ちゃんとかくれんぼしようか』

 

? 『かくれんぼ!わたし、つよいんだよ、いつもお姉ちゃんとしてるの。さっきもね、沢山したのよ』

 

??『じゃあ、お兄ちゃんのお家から出ないルールで、鬼はゆっくり10数える、これでいい?』

 

? 『うん!じゃあ、最初はわたしが鬼!お兄ちゃん隠れてね!いくよ、いーち…、にーい…』

 

馨  「……くん、景くん!」

 

景  「……あ、あれ」

 

敏生 「あぁ、よかったぁ…」

 

志信 「頭痛い、って急に動かなくなるから心配した。大丈夫?」

 

景  「…あ、あぁ、うん…」

 

景N『声は響く、白昼夢は終わらない』

 

?   『お兄ちゃん』

 

景  「…!、また」

 

?   『お兄ちゃんが、オニだよ』

 

 

 

志信 「…え?」

 

馨  「婆ちゃんが覚えてた」

 

大貴 「覚えてたって、まさか…」

 

馨  「被害者の子達こと、覚えてた。……昔、婆ちゃんこの街でちっちゃい駄菓子屋やってたらしくてな。そこによく母親と一緒に来てたらしいんだ」

 

敏生 「…じゃあ、事件のあとのことも」

 

馨  「うん、……母親がかなりのノイローゼになったらしくて、まぁ大事な娘が2人同時に居なくなって生きてるのか死んでるのかすらわからない状況じゃあ、そうなっても仕方ないんだろうけど…神社の周りを朝から晩まで徘徊したり、警察に怒鳴り込みに行ったり…見てる方が辛かったって言ってた」

 

景  「……」

 

馨  「結局、この土地に居たんじゃいつまでも苦しみ続けるから、って父親の実家の方になんとか説得して引っ越したらしいんだ。で、その一家が元々住んでたのが、」

 

景  「…住んでたのが、なに?」

 

馨  「…景くんのアパートだって」

 

敏生 「はぁ!?マジで!!?」

 

景  「…あの家に、あの子が」

 

志信 「…とんだオカルト話だな」

 

大貴 「最初からオカルトだっただろ。でも、じゃあ俺と敏生はなんで…あ、」

 

敏生 「あ、ってなにさ。だいくん」

 

大貴 「敏生、お前の爺さんって昔…」

 

敏生 「爺ちゃん?……え、あ…!……そうか」

 

志信 「…?」

 

景  「敏生の爺さん、自治会長だったっけか」

 

大貴 「…うちは、親父が警察官、そうか…皆何かしら関わってたんだ、事件に」

 

馨  「お前警察官の息子なの?」

 

大貴 「大分前に引退したけどな。…つーか、親父からそんな話聞いたこともなかった…」

 

志信 「家族には言えないだろ。…とはいえ、こんなでかい事件なんで話題にも上がんなくなったんだ…」

 

景  「…時間が経てば嫌でも風化するのか、こういうのって」

 

敏生 「……なんか、悲しいよねそれはそれで」

 

?  『お兄ちゃんがオニだよ』

 

景  『…俺が、オニ』

 

?  『お兄ちゃんがオニ。もういいよ、早く探しに………』

 

景  「鬼は、どうなったんだろうな」

 

志信 「…犯人?…まぁ、とっくに時効だろうね…」

 

馨  「…何処までも胸くそ悪い話だな」

 

?  『お兄ちゃん、寒いよ、苦しいよ、イタイよう…』

 

敏生 「……探してあげようよ、俺たちで」

 

志信 「30年以上前の事件なのに?探すったって手掛かりも何も……」

 

敏生 「けど!……けど、見つけて欲しくて、泣いてる」

 

景  「…敏生、お前…」

 

敏生 「ずっと泣いてんだよ、あの子」

 

?  『もう、暗いところに居るのは嫌だよお…お兄ちゃ…』

 

馨  「一つ確認な。…その女の子は誘拐されて恐らく…誘拐犯の手に掛かって命を落としてる。それが俺らの共通認識で、いいんだな?」

 

大貴 「……ほんとに、いいのか?」

 

景  「だいくんは、放置しておけんの?」

 

敏生 「景くん、そんな言い方しなくても」

 

大貴 「放置、しておくべきなんじゃねぇの。見つけて俺らに何が出来んの?」

 

景  「放置してたら何時までもあの夢見る事になると思う、俺だってもう…解放されたい」

 

敏生 「…俺も、苦しんでるの見るのはもう、辛いよ。実際のところ」

 

大貴 「…だから、具体的にどうすんの。何か策でもあるわけ?」

 

景  「それは……、」

 

馨  「策なら、ある」

 

大貴 「犯人が何処のどいつかも分かってなかったのに、どうやって……」

 

馨  「別に俺達は犯人探しが目的じゃない。その子を見つけてあげることが目的なら…見てる記憶の中の、家を探したらいいだけ。そこに、居るんだろ?その子は今も」

 

敏生「…そうか、そうだよね!30年くらい前なら誰か知ってる人だって…」

 

大貴「家探すっていうけど、…30年だぞ。この辺大分様変わりして………!」

 

馨 「様変わりしてる、のにあの子は見つかってないってことは?」

 

景 「………あの頃から、変わってない所か」

 

馨 「そういうこと。変わらないままその子が眠ってるなら、新築の家なわけない。この辺で古い家は、何件かあるけど夢の中の情報と繋がる場所ってそう多くないはずだろ?」

 

景N 「その日、初めて俺はあの子と対峙した。腰より下に顔のある、小さな小さな女の子。その子は俺を見上げてにこりと笑った」

 

? 『いーよぉ』

 

景 「……?」

 

? 『もういーよぉ』

 

景 「……お前…どこに」

 

? 『庭に林檎の樹があるおうち』

 

景 「……林檎」

 

? 『林檎だよ。……ねえお兄ちゃん。林檎飴食べたいなァ』

 

景 「…お前だけか?」

 

? 『んーん、お姉ちゃんも一緒』

 

景 「……そっか」

 

 

 

 

志信「林檎……?」

 

景 「そう。林檎の樹」

 

大貴「この辺りで林檎の樹…なぁ」

 

馨 「祭りのあった神社は、一高(いちこう)の裏手だしその辺の古い家、で林檎の樹のある家…ってことか…?」

 

敏生「一高の近く…一高、神社…ええと…」

 

志信「ブツブツうるさいなぁ、なんなの」

 

敏生「……神社の、……ある。神社の近くにあるよ」

 

大貴「ある、って」

 

敏生「だいくん、覚えてない?俺らガキの頃美味そうだから、って取って食ったことあったじゃん」

 

大貴「…あぁ!あの家か!」

 

景 「そこ以外は?」

 

敏生「俺の記憶に残ってんのは、その家くらいかなぁ…」

 

馨 「……ここで話してても時間勿体ないな。…手掛かりがあるなら、取り敢えず行ってみる?あとは歩きながらでも探せると思うし」

 

? 『林檎飴食べたいなァ…』

 

景 「……この辺で林檎飴なんて売ってるはずない、か」

 

志信「…林檎飴?なんで?」

 

景 「食いたいって、言ってたんだよな…あの子」

 

敏生「…そういや、祭りでも食べてたっけ」

 

大貴「小さい口いっぱいに頬張ってたなぁ」

 

馨 「…いや、あると思うけど?ほら」

 

志信「……あぁ、今日からなんだ…あそこの夏祭り」

 

敏生N 「夏祭りのポスターを見つけた頃。外はもう日が傾いていて、外に出ると湿った夏の空気が俺達の間を通り抜けていった。……まるで、小さな子供が走りすぎていったような…そんな感覚に陥った。俺達はそのまま提灯の光る参道を歩き懐かしい屋台の中を少しだけ見て回った」 

大貴「ひとつ?ふたつ?」

 

景 「ふたつ」

 

大貴「おっちゃん、ふたつね」

 

志信「……大の男が並んで林檎飴買ってる姿ってかなりシュールやと思ってたけど、景くんだと違和感ないな」

 

敏生「それ、景くんにいったらキレるよ〜?」

 

志信「大貴は違和感ありまくりだけど」

 

馨 「キレないけど、その言い方は大貴ヘコむぞぉ……」

 

敏生「この辺りだったと思ったんだけどなぁ……」

 

? 『お兄ちゃんっ』

 

景 「…!」

 

? 『お兄ちゃんがいっぱい…』

 

景 「…今、見つけに行くから」

 

? 『…うん。』

 

大貴「敏生、ここ」

 

馨 「………ここ?」

 

敏生「うん、…間違いない」

 

志信「…空き家ってより、廃屋(はいおく)だな…これ…」

 

馨 「…景くん、ここだって」

 

景 「……ん、今行く」

 

敏生「うわ、床抜けそ……」

 

大貴「ってか今更だけどこれ不法侵入なんじゃね…?」

 

志信「今更過ぎて笑いも取れないというか不法侵入とか難しい言葉よく知ってたなぁゴリラ」

 

大貴「え、今突然の毒?俺なんかした??」

 

馨 「結構広い家だなぁ……どの部屋かは、さすがに分かんないもんなぁ…」

 

敏生「出た、必殺スルースキル…」

 

? 『もーういーいよー』

 

敏生「……!!…今の」

 

大貴「あぁ…聞こえたな」

 

景 「聞こえた。あの子だ」

 

志信「……馨くん、聞こえた?」

 

馨 「いや、……やっぱりアイツらにだけ、だな。なぁ、闇雲に全員が動いても仕方ないし、二手に分かれて探そ」

 

 

(間)

 

 

馨 「お前、案外こういうの真剣になるんだな」

 

大貴「ここまで来たらな、無視もできねーじゃん。むしろ聞いてただけのお前と志信がここまで着いてきてんのが驚き」

 

馨 「…そうか?まぁ、そこはあれ。放っておけない性分」

 

大貴「ふは、……損な性分だな」

 

志信「…カビ臭い…」

 

敏生「ガキの頃から空き家だったからなぁココ」

 

志信「取り壊しとか、よくされなかったよな…」

 

敏生「取り壊すにもかなり金が掛かるらしいしねぇ…だから放置してたんじゃない?立地的にも奥まってて買い手付きにくいだろうし」

 

景 「…何年も、何十年も…こんな所に居て、寂しかったんだな…」

 

志信「…寂しい、だろうな」

 

? 『もういいよォ』

 

敏生「おわっ!!」

 

志信「あっぶな……なにしてんの敏生…」

 

敏生「いってててて………何か躓(つまず)いた…」

 

景 「…敏生、そこの畳剥がせる?」

 

敏生「……んぁ?畳…?」

 

志信「…ここ?」

 

景 「…ここだと思う」

 

敏生「ちょっと待って。だいくん達も呼んでくる」

 

景N 「ここに居る、そう思ったのは直感だった。ボロボロの畳を携帯の明かりを頼りに1枚ずつ剥がして見えた基礎の木枠は…少し振り下ろした足の力で簡単に割れた」

 

志信「……土に混じって、なんか」

 

敏生「うん………なんだろうこの変な匂い…」

 

大貴「……掘ってみるか」

 

敏生N 「割った木枠をスコップの代わりにして、少しずつ、少しずつ土を掘り起こしていった。暗く冷たい土の下に眠ってる彼女達を傷付けないように、ゆっくりと少しずつ」

 

馨 「…ストップ。………これ、…………浴衣じゃないか?」

 

景 「………やっと、見つけた」

 

志信「本当に……こんな所に…」

 

景N 「布の下に、小さな細い白い骨。間違いなんてあるはず無かった。辿るように掘り進めて、ふたつ並んだ頭蓋骨を見つけた俺達は、そっと、その頭を抱きしめた時…」

 

? 『お兄ちゃん、ありがとう…』

 

景N 「そんな可愛い声が、5人の耳に風の音のように流れ込んできた」

 

志信「ほんとにここでいいの?」

 

景 「骨持ってこれ無縁仏に入れてくれ、なんて俺達が犯罪者にでも間違われたらどうすんだよ」

 

志信「それはそうだけど………」

 

大貴「見つけても、ちゃんと供養してやれるわけじゃない…親んとこにも帰してやれない、最初から分かってた事じゃん」

 

馨 「…せめて暗い畳の下から出してあげられただけ、マシ……って思うしかないか」

 

敏生N 「見つけた骨は、庭の林檎の樹の下に埋め直すことにした。…志信はちょっと不満がありそうだったけれど、俺達にはそれ以外何も出来ないから、という景くんの顔が1番辛そうで何も言えなかったみたい。……本当は、家族に会わせてあげられたらよかったんだけど」

 

? 『よかった…これでもう寒くないね』

 

景 「…ごめんな」

 

? 『いいよ、お兄ちゃん達は見つけてくれたもん。……ありがとう』

 

敏生「…景くんアレは?」

 

? 『……?あっ、林檎飴…!それにふたつも…!』

 

景 「…ひとつは姉ちゃんの分だからな。食うなよ」

 

? 『うんっ……ありがとぉ…』

 

 

(間)

 

 

馨 「はぁぁ…もうすっかり夜だなぁ…」

 

敏生「ほんとだ…。なんか、長かったね」

 

志信「…長く感じたな」

 

馨 「……いつかあの家が壊されることがあれば、あの子らも帰れるのかねぇ」

 

大貴「…さぁな、でもそうであって欲しいけど」

 

景 「…あとはもう帰るだけだろ。もうかくれんぼは終わってんだから」

 

馨 「…そう、だな。なぁどうする?これから」

 

敏生「どうする?って?」

 

馨 「帰る?」

 

志信「…あー、どうしようか」

 

敏生「…帰んないならさぁ…祭り行かない?皆で」

 

大貴「これからぁ?」

 

敏生「まだ終わってないみたいだし、少し位見て回れるっしょ」

 

景 「…このメンツで祭り、ねぇ」

 

志信「…いいんじゃない?」

 

馨 「え」

 

志信「え?」

 

馨 「いや、志信がそういうの珍しいと思って。いつもお前が真っ先に苦言呈するっていうか文句垂れるっていうか…」

 

志信「別にいつも不満な訳じゃないんですけど」

 

馨 「はは……さいですか。んで、大貴達は?どうする?」

 

大貴「俺も行く。景くんは?」

 

景 「……」

 

大貴「景くん?」

 

景 「あ?あぁ………」

 

敏生「行く?」

 

景 「…行くかー。敏生お前の奢りな」

 

敏生「はぇ!?なんで!?」

 

景 「言い出しっぺお前だし。あ、俺林檎飴食いたい」

 

大貴「んじゃ俺も林檎飴ー」

 

志信「俺も」

 

馨 「………俺も半分出すか?」

 

敏生「いいよ!!林檎飴位ご馳走しますぅ!」

 

? 『ふふふ、もういーいかーい。もーういーいよー』